気密測定 定期報告 31(~当社の全館空調への取組み(前編)~)

エスケイハウジングでは、建築させていただくすべてのお家で気密測定を行っております。

先日も、和歌山市で建築中の現場にて気密性(C値)の測定を行いました。

結果は 気密C値=0.11 でした。今回も安定の超高気密が確保できております。前回のコラムでも、そして今回のコラムの本題にも繋がりますが、全館空調を行なうのであれば気密測定を行なってC値0.50以下を確保するのは絶対条件となります。これは理論上でもそうですし、当社の実際の経験則からもそう断言できます。

今回はその理由や経緯について語ってみたいと思います。

 

全館空調に興味をもったきっかけ

実は私が最初に全館空調に興味を持ったのは今から約15年も前の話になります。当時私は大学生だったのですが、夏休みの帰省中に実家の家業(当社)の完成見学会を手伝うことになりました。

「ウチの家は高気密高断熱と言って、エアコン1台だけで夏涼しく冬暖かい高性能住宅や」と父親(現会長)から聞いてあったので期待して現場のリビングに入ってみると、確かに実家よりもはるかに涼しい! しかし感激したのは束の間、2階も見てみようと階段を1段1段上り始めたとたんムンムンと暑さを感じ始め、2階はもはや実家と何も変わらない暑い家だったのです。このことを父親に告げると「そりゃ2階はエアコンついてないから当たり前やろ」との回答。「『エアコン1台で夏涼しく冬暖かい』って、結局エアコン空調がまわる場所だけの話かい・・・」とガッカリしたのです。

私は小さい頃から夏場や冬場、快適に空調されたリビングから出るのが本当に嫌いでした。特に夏場、ちょっとトイレに入ったり自室に物を取りに行くだけでダラダラ汗をかくことが本当に嫌でした。「エアコン1台で夏涼しく冬暖かい、そんな家ならあのような思いもしなくて済むのだろうか」そんな期待をしていたのに、こうして理想とははるかに遠い現実を目の当たりにしたのです。

そして当時建築について完全にド素人だった私はこのとき、「断熱や気密がどうこうよりも、快適を追求するためには結局は空調計画の方が大切なんじゃないのか」と思いました。そしてこれはある意味でものすごく核心を突く意見であったのだと、この10年後に私は自ら気付くことになります。

 

断熱・気密だけでは解決しない問題

その数年後、私はエスケイハウジングの専務取締役となっていました。当社の断熱・気密の理論と技術は、あの大学生の頃からさらに進んでいました。

 
  • 当時の和歌山県ではほぼ採用例の無かった現場発泡ウレタン断熱材(それも30倍発泡品)の採用
  • 「高気密なんて和歌山県に必要ありません!」という意見を声高に叫ぶ競合他社が多い中でも気密測定を行ない、毎回C値0.50以下を確保
  • オールアルミ窓やそれに近い低性能アルミ樹脂複合窓が主流の時代に、当時最高性能を誇ったアルミ樹脂複合Low-Eガラス窓(LIXIL/サーモスX)の採用
  • 「できることはすべてやる」の精神のもと、遮熱シートの採用及びシート継ぎ目のテーピング処理
 

など住宅の性能に関わる部分では、当時としては「次元が違う」と言っていいほど進んでいたと思います。

しかしそこまでやっても解決しなかった問題が「エアコン1台で家の隅々まで快適にする」ということでした。とは言っても、当時のお客様でも「冬はリビングのエアコン1台だけで全館暖かいですよ」と言ってくれるお客様も多く、この温暖地においては断熱・気密を上げていくだけで解決する部分もあったのは事実です。つまり全館暖房についてはさほど大した工夫をしなくとも自ずとある程度のレベルまで持ってはいけていたのです。まぁ実際の体感としては「空調の効いたリビングは非常に暖かいが、非空調室(水まわり等)は”寒くはない”という程度」と言う感じで、私自身が満足できるレベルには達していなかったのですが。

何より私の頭を悩ませ続けたのは夏の暑さでした。冷たい空気は物理的に横方向に広がりにくい特性をもっているため、どれだけ断熱・気密を強化しようとも1台のエアコンで全館を冷房することは難しく、特に非冷房室である水まわりや玄関~廊下の暑さを解決することはできなかったのです。この頃には全館空調をしているフランチャイズ系工法への加入も検討したのですが、やはりあまりの初期コストアップとフランチャイズ本部への多額のロイヤリティ問題、何より特殊な部材で武装しまくった家は後年に修理やメンテナンスにおいて多額の出費をお施主様に強いることになることが容易に想像できたため、それは思いとどまりました。

この頃、中には厳しい意見を言う方もおられ、見学会では「これで”高性能で夏涼しい”って表記はやめた方がいいですよ(笑) 3台もエアコン回して高性能とか言われても、普通の家でも3台あれば涼しくなりますよ(笑)」という辛辣な意見をいただいたこともありました。

 

転機となったお家。そしてパッシブ設計を知る

しかし2017年の真夏に行なった見学会で急に転機を迎えることになります。完成見学会のお家が今までになく快適で、家じゅうに空調が行き渡っていたのです。それまでと性能・仕様は変えていません。しかしたまたま各設計が上手くいったお家になっていたのでしょう。

ここで私は、快適性と間取り設計には密接な関係があることに気がついたのです。いわゆる「パッシブ設計」や「パッシブデザイン」というものです。正直、2017年のこの時点ではパッシブ~という言葉は「高気密高断熱が技術的に実現できない住宅会社の、論点すり替えセールストーク」的に使われていた言葉でした。しかし正しい意味でのパッシブデザインは確かにその効果を発揮するということを身をもって経験することができました。そこで私はパッシブデザインについて調べ始め、今や建築業界の超有名人、しかし当時は今ほどの知名度がなかった松尾先生の存在を知りました。

同時に、なぜあのお家の空調があんなにも家じゅうに行き渡っていたのかも探求し始めました。お客様の同意をいただいた上で、弊社で実費負担をして様々な空調計画を試し始めたのがこの頃です。この流れで書くと、さも一筋の光が差したかのような言い回しになっていますが、本当の苦労はここからでもありました。この時点であの大学生だった頃から約10年もの歳月が流れていました。

 




紀南地方でもっとも古くから高気密高断熱住宅を手掛けてきた弊社の強みは、このように高水準な数値を安定的に出すことができる点です。

気密数値を語る場合、この「安定したクオリティ」が非常に重要なポイントとなります。1邸1邸の数値が安定しないようでは、お客様によっては「ハズレ」を引く可能性があるためです。

なお、数値性能だけが良くても「=体感性能も良い」という訳ではありませんので注意が必要です。数値性能と体感性能が比例していない建物はたくさん存在します。

むしろ数値性能は参考までと考え、実際に寒い日・暑い日の見学会に参加して「しっかり性能を体感できる」ことが大切です。

今後もまた報告をアップしていきたいと思います。

 

 


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