気密測定 定期報告 32(~当社の全館空調への取組み(中編)~)

エスケイハウジングでは、建築させていただくすべてのお家で気密測定を行っております。

先日も、田辺市で建築中の現場にて気密性(C値)の測定を行いました。

結果は 気密C値=0.16 でした。今回も安定の超高気密が確保できております。ちなみに前回のコラムを読んだ方から素朴な疑問「なぜエアコン1台にこだわるんですか?」との意見をいただきました。理由は単純で、エアコンの台数が少なくなれば電気代も初期コスト(エアコン設置費用)もすべてが安くなるからです。さらに言えば家のまわりに室外機が少なくなるので、外観もカッコよくなります。逆に言えば、いくら性能数値が良くても空調設計ができておらず何台ものエアコンが設置された家であれば、まったくその数値を活かした性能は得られないという意味です。それは「高性能住宅」ではなく、単なる「スペック数値が良いだけの家」です。

さて今回も当社の全館空調方式の開発経緯について、引き続き語ってみたいと思います。

 

一般家庭用ルームエアコンで全館空調を成し得ないと意味がない

前回のコラムで書いたように、2017~2018年ごろから当社では独自の全館空調方式の確立に向けて研究を開始しました。単に全館空調を成し遂げたいだけであれば断熱・換気システムなどと抱き合わせ販売をしている全館空調フランチャイズ系工法を導入すれば一発で解決する話ではあるのですが、私はあくまで「一般家庭用エアコン1台で」にこだわりました。というのも「家じゅう快適でありながら、初期コストもランニングコストもどちらも下げたい」という、明確な目的があったからです。我ながら欲張りですね。

全館空調系のフランチャイズに加盟すれば、加盟料と部材費合わせて原価で200~400万円アップするのはこの業界の常識です。それでは予算が合わないお客様が続出し、結局は「オプションで全館空調仕様もできます(年に1件も売れてないOPですけど…)」となってしまうのが目に見えています。

話は逸れますが、この業界にはそういったおとり広告に近いものが多すぎます。例えば家を「松竹梅」的にグレード分けし、性能・仕様は松グレードで謳い、価格は梅グレードで謳う。「○○断熱で高気密高断熱の全館空調仕様、窓は樹脂窓、耐震等級3~!!(←これは松グレードだけの話) そして価格は1800万円から~!!(←これは梅グレードの話)」という具合です。お客様は1800万円で全館空調のお家が建てられると思ってその会社を尋ねるわけですが、1800万円で建てられるのは高気密高断熱でも全館空調でも樹脂窓でも耐震等級3でもない、普通の家(梅グレード)だったりする訳です。

私はそういったお客様の勘違いを意図的に狙った営業手法が大嫌いです。また家をグレード分けすることも嫌いです。松グレードが一番良いと思っているならなぜ松グレードだけを販売しないのか。様々な客層を相手にしなければならない大手ハウスメーカーが自社商品をグレード分けすることは理解できますが…。

 

エアコンを様々な場所に取付けてみた

全館空調方式を模索し始めた際に、一番最初に試してみたことが居室以外の場所にエアコンを設置する方法でした。寝室に付いているエアコンが廊下や子供部屋に効かないのであれば、逆に廊下や階段ホール・吹抜け周囲にエアコンを付けてみました。当時は空気の動きまで設計に盛り込むという考えもなく、従来通りの間取りをベースに単純にエアコンの設置位置を変えてみたのです。(実際は効かなかったときのために寝室にエアコンを付け替えられるよう対策はしていましたが。また当然それらの費用は当社負担でした)

結果は言うまでもなく全然効きませんでした(笑) 廊下やホールだけが空調されればまだマシで、実際はショートサーキットを起こして廊下・ホールさえ満足に空調されないことさえありました。今でも全館空調にチャレンジしたくなった住宅会社が一番最初に通る道がこれではないでしょうか。最近もSNS広告で似たような空調を行なっているケースを見ましたが、100%失敗する計画でした。私ほどいろいろな失敗をしてきていればだいたいの失敗は経験しているため、明らかに失敗する空調計画は見ただけでそのオチが予想できるようになります…。

文量の都合で詳しくは書けませんが、本当に様々な場所にエアコンを設置して実験・実測を行ないましたが、どれも満足のいく結果は得られませんでした。この頃、正直言って理想の空調計画は完全に暗礁に乗り上げていました。

 

パッシブ設計セミナーに参加し、一筋の光を見出し始める

YouTubeをきっかけに一気にその名前を知らしめた、日本を代表する高性能住宅専門の建築家、松尾和也氏。2019年の夏、業界紙「日経ホームビルダー(現在は廃刊)」が主催となって、松尾先生の有料セミナーが東京・虎ノ門にて行われました。2日間かけてみっちりパッシブ設計手法とその空調計画を学ぶといったカリキュラムで、参加費は35万円ほどだったと思います。安くはないですが、今や超売れっ子の松尾先生ですから、今ならそんな金額では絶対にやってくれないでしょう。

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私は1人でそれに参加。会場には30名ほど、意識の高い設計士や工務店経営者たちが集まっていました。そしてセミナー開始時の松尾先生の開口一番の言葉がものすごく印象に残っています。

「パッシブ設計というと家の間取りや形状ばかりに目がいきがちですが、あくまでも高気密高断熱がベースです。そしてそこに適切な空調計画が必ずセットで必要になってきます」 この言葉を聞いて自らの研究の方向性は決して間違っていないのだと、一気にテンションが上がりました。

そしてそこで床下エアコン暖房の設計手法を学び、また初めて小屋裏エアコン冷房という存在を知りました。さらにいえば、そういったパッシブ設計というのは単に間取りをどうする、窓をどうする、エアコンをどこに設置する、などという物理的形状的なことだけでなく、住宅性能に合わせたエアコンの容量選定や空調を効かせるための熱収支の計算という数値的な根拠の裏付けこそがパッシブ設計の根幹であることも学びました。

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この他にも様々な先生方のセミナーに参加して勉強しましたが、やはりこの松尾先生のセミナーがもっとも実践的でかつその後の当社の方向性に強い影響を与えたものでした。この頃はまだコロナ禍前。この時代にこういった対面式のセミナーに参加できて本当に良かったと思います。やはりZOOM等のウェビナーでは1/3も伝わりません。

 




紀南地方でもっとも古くから高気密高断熱住宅を手掛けてきた弊社の強みは、このように高水準な数値を安定的に出すことができる点です。

気密数値を語る場合、この「安定したクオリティ」が非常に重要なポイントとなります。1邸1邸の数値が安定しないようでは、お客様によっては「ハズレ」を引く可能性があるためです。

なお、数値性能だけが良くても「=体感性能も良い」という訳ではありませんので注意が必要です。数値性能と体感性能が比例していない建物はたくさん存在します。

むしろ数値性能は参考までと考え、実際に寒い日・暑い日の見学会に参加して「しっかり性能を体感できる」ことが大切です。

今後もまた報告をアップしていきたいと思います。

 

 


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